阿部研究室

山形大学大学院理工学研究科 バイオ化学工学専攻
〜計測と生物の融合技術で生命の神秘を探る〜


研究内容

電気化学計測技術を応用した細胞呼吸計測装置の開発

マイクロ電極をセンサープローブとして用いる電気化学計測法は、局所領域における生体反応をリアルタイムに高感度でモニタできる技術です。私たちの研究室では、電気化学計測技術を基盤とする「受精卵(細胞)呼吸測定装置」の開発に成功しています。この装置は、単一の細胞や受精卵の酸素消費量(呼吸)を非侵襲的に計測することができる世界最高精度の細胞呼吸計測システムです。

受精卵品質評価・細胞機能解析システムの開発と応用

「受精卵(細胞)呼吸測定装置」は、ミトコンドリアの呼吸機能をリアルタイムで計測することができます。ミトコンドリアは細胞活動に必須のエネルギー(ATP)を生産している非常に重要な細胞小器官であり、その機能が障害されると代謝活動異常や種々の病気の原因となります。このように、ミトコンドリア呼吸機能のモニタは細胞の活動(元気度)を調べるだけでなく、受精卵や機能性細胞のの品質診断の有効な指標となります。私たちの研究室では、細胞呼吸活性を指標とする受精卵の品質評価システムを世界で初めて開発しました。このシステムを応用することで、ウシ受精卵移植における妊娠率の向上に成功するとともに、動物実験により品質評価システムの有効性と安全性の検証を行っています。最新の研究成果として、「受精卵(細胞)呼吸測定装置」を用いてヒトの呼吸量計測に初めて成功するとともに、医療機関との試験的臨床研究により不妊治療におけるヒト胚の品質評価に有効であり、体外受精や顕微授精による不妊治療の成功率を向上させることが示されています。

呼吸計測技術と生物学的解析技術を駆使した生殖細胞ミトコンドリア呼吸機能解析

ミトコンドリアは細胞活動に必須のエネルギー(ATP)を生産していることから、「細胞の心臓」とも言える極めて重要な機能を果たしています。しかしながら、これまでに知られているミトコンドリア呼吸機能は体細胞を使った研究により得られた研究成果がほとんどです。卵子や初期胚におけるミトコンドリアの呼吸機能に関してはほとんど研究されていません。そこで私たちの研究室では、卵形成から着床間までの過程におけるミトコンドリア呼吸機能を解析し、これまで明らかにされていない生殖細胞におけるミトコンドリア呼吸機能を解明を目指します。

雌性生殖器官に由来する生理活性物質の機能解析

卵管や子宮などの雌性生殖器官は、受精や胚の初期、着床など発生・生殖領域において極めて重要な役割を果たしています。これまでに、卵管上皮細胞由来糖タンパク質の生理機能を明らかにし、卵管上皮細胞と精子の細胞間相互作用が精子の受精能獲得(キャパシテーション)に深く関係していることを発見しています。これらの研究成果を基盤に、各種哺乳動物を研究材料に雌性生殖器官の生物機能の解析を進めていきます。また、生殖器官の細胞分化機構の解析を行う予定です。

卵子の体外培養および凍結保存システムの開発

近年、卵子の体外培養、凍結保存などに代表される生殖補助技術は目覚ましい発展を遂げ、ヒト不妊治療や家畜などの動物生産に大きく貢献しています。例えば、悪性腫瘍の治療により不妊となるケースが多いことから、治療前に卵子や卵巣を摘出・凍結保存し、治療後に融解・体外培養し母体に戻すことで,その影響を回避することができます。しかしながら、体外培養における卵子の生存率は低く、凍結保存後の卵子ではその率がさらに低下してしまうため、現在のヒト不妊治療では成功率が20%という決して満足できるものではありません。そこで、生殖細胞(卵子・精子)の体外培養系を開発・改良することで、生殖細胞の分化・発育・受精を人為的に行い,産子作出に至るシステムを構築するとともに、生殖細胞の分化・発育機構を解析します。一方、細胞の凍結では超急速冷却が可能な保存容器や凍結前の耐凍剤処理が必要であり、熱伝導性を考慮した保存容器や冷却装置、保護作用の高い耐凍剤(高分子化合物など)を開発します。また,凍結保存による影響を詳細に解析することで、細胞生存性の高い保存法を確立します。

呼吸器疾患を治す新薬の開発

肺は、我々が生きるために必要な「呼吸」を行う大切な臓器です。これまで、心臓病や脳血管傷害、癌ばかりが死亡原因として恐れられてきました。しかし、実は肺の病気で亡くなる方は非常に多く、肺の病気を治すことができれば、我々の寿命が延びたり、生活の質(QOL)が高くなることが期待されます。また、低体重児と言われる予定より早く生まれてきた赤ちゃんの肺の発育を助けることができれば、多くの赤ちゃんが健康に育つことになります。

そこで、肺自身が作り出し、界面活性剤として機能するサーファクタントというタンパク質が呼吸器疾患や肺の発生にどのように働き、どのような効果をもたらすのかを研究しています。特に細胞工学や分子生物学、動物実験を中心に、呼吸器疾患モデルを細胞レベル、動物レベルで作成して検討しています。また、肺を理解するためには、工学的な解析や生理学的な解析が重要であるため、基礎的な生物学的解析をベースに広い観点から研究を進めています。そして「役に立つ研究」を目指しています。

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